【読書メモ】『DeToNatorは革命を起こさない』 / 江尻勝

2009年に設立されたe-Sportsチーム『DeToNator』。

その設立者である江尻勝さんがDeToNatorの活動を通してゲーム / e-Sports市場でどのようなアプローチをとってきたかが書かれた本である。
2018年の流行語大賞で「eスポーツ」がトップ10入りを果たした。
しかし10年前、日本ではほとんどe-Sportsという言葉さえ聞かれなかった。
そんな黎明期に立ち上げられたDeToNatorは10年弱もの間、地道に活動を続け日本におけるe-Sports / ゲーム市場の拡大に寄与してきた。
日本のe-Sportsシーンを牽引してきたDeToNatorの過去から現在に至る活動軸を見ていくことで、未来のe-Sportsの展望が見えてくるだろう。
DeToNator
DeToNatorホームページトップより

江尻勝さんの変わった経歴

DeToNatorの代表である江尻さんは変わった経歴の持主である。
大学卒業後、当時のカリスマ美容師ブームの中心にあったサロン『ACQUA』に入社。
独立などを経ながら13年に渡って美容師兼ヘアメイクの領域で活躍している。
美容師活動と平行しながら2009年、趣味で始めていたFPSオンラインゲームA.V.AのチームとしてDeToNatorを設立。
35歳の時、A.V.Aの大会で日本チャンピオンとなっている…!
(一説によれば脳の反応スピードは20代半ばで衰え始めるというのに、30歳超えてPCゲームの世界に入って日本一まで上り詰めているのはすごい…!)
※脳の反応速度は24歳から衰え始める 「StarCraft 2」を使った実験の結果で判明
2009年:DeToNator設立
2011年:美容師を引退。その後ネットショップの立ち上げや宅建取得などを経験。
2015年:(当時40歳)株式会社GamingDを創設。
2016年:より台湾での海外展開を開始。
2018年:よりフィリピン / 韓国での海外展開も開始。
30歳を超えてからPCゲームの世界に入り、プレイヤーとして実績を残しながらチームを立ち上げてきた異例の経歴を持っている。
ただ変わった経歴とは逆に、活動内容はかなり地に足がついた形で取り組んでいる。
その哲学やバックボーンについて書かれているのが本書だ。

表層にとらわれず本質を追求する姿勢

本書を読んでいて全般的に感じたのは江尻さんの本質を追求する姿勢だ。
ビジネスに対しても教育に対しても表層を取り繕ったり、浮ついた考え方をしていない。
しっかりとした成果を上げるために、淡々とやるべきことをやるという姿勢を追求している。
目先の利益に囚われたり、積み重ねた実績に対して奢ることなく、目指した理想に向けて努力し続ける。

江尻さんの地に足の着いた活動があったからこそ、若手中心の市場であったe-Sportsがビジネス界隈に受け入れられ成長にドライブをかけられるような下地ができたのだと感じされられた。

そのような江尻さんの本質を追求する哲学は本書のいたるところで見受けられた。

いまの業界からは〝人〟が抜け落ちているように感じる。
表面だけの情報をつかまされて、eスポーツはお金になると信じ込んでしまう。
もっとも肝心な〝人〟を育てず、自分が業界に貢献している気になるのは危険だ。
私は地道に教育して人材を育てたい。大きなことを成すのはそれからだ。
その順番は変わらないだろう。

ゲーマーコーチを名乗る人間は始める前から「内容に自信がないから値段を下げます」なんて本末転倒なことを言い出したりする。
人に教えるビジネスを始めるんだったら、一定レベルの講義内容を担保し、そこに値付けできるようになってから動き出すべきだろう。
自信の持てない商品を消費者に売ってはいけない。

メンバーは私がビジネスをしていくための大切な仲間だ。
長い時間をかけて信頼関係を築いてきた。
お金のやり取りはクリーンに行い、隠しごとはしない。
私はメンバーに個人での法人化を勧めたりもする。
ネガティブな意味合いはなく、お金の動きの勉強になり、税制的にもメリットがあるからだ。

バブルのような浮ついた空気に流されず、地に足の着いた経営をしていかないと、自分たちの要求は通らない。
ビジネスをするうえで至極当然の心構えだ。

江尻勝さんの教育にかける熱い思い

DeToNatorは『①教育事業』、『②ストリーマーの広告事業』、『③海外で行うeスポーツの競技シーン』という3本柱でビジネスが成り立っているが、特に教育に対する江尻さんのスタンスが素晴らしかった。

e-Sportsの選手は他スポーツ同様に10代から育成していくのが大事である。
若い選手だからこそしっかりとした人格を形成し、中長期に渡って活躍できる下地を作るというスタンスで江尻さんは選手育成に望んでいる。
特にビジネスシーンで盛り上がりを見せているe-Sports界隈は選手にとって甘い話がたくさんでてくるだろう。
そういった誘惑に負けない人格を形成し、将来に渡って活躍できる選手を育成することをDeToNatorでは大事にしている。

大人たちは給料を払えば選手が言うことを聞く、真剣に練習もすると思っているだろうが、じつは聞かないのである。
考えないのである。
私は 10 年のチームの歴史の中で、何度も経験してきた。
「お金をもらえるんだから、それ以上にがんばろう」と、心に刻むプレイヤーと出会えるのは、そうとうのレアケースだ。
教育が行き届いていない子にお金を渡し、間違った考えを植え付けてしまったら、その子はもう競技選手としては使いものにならない。
悪い言葉で恐縮だが、それが事実なのだ。
責任は本人だけでなく、お金を与える側にもある。
こういった事情を理解せずに「eスポーツが盛り上がっている。給料を払うからゲームに集中してね」などという甘やかしがプレイヤーの成長を阻害したら、責任は誰が負うのか。
ただ単に、ゲームがうまい若者をピックアップして、お金のやり取りの重大さを教えず、厳しくもしない。
教育を本当に重要視している。
ゲームプレイでお金を稼ぐことの価値を学び、さらに人間性も磨く。
プレイ技術以外にも、すべてを兼ね揃えていないとトッププレイヤーにはなれない。
日本のトップではない。
世界のトップだ。

e-Sportsが盛んに取り上げられる良い時代になったが、そういった中でも浮ついた考えを見せず地に足の着いた活動をするDeToNatorのようなチームは今後も大きく飛躍していくだろうなと感じさせられた。以前「『令和』の自分に向けた『平成』の記憶」という記事で、自分の過去のゲームの関わりについて書いた。
僕がちょうどゲームから離れていた10年の間、このような活動があり今のシーンの盛り上がりがあるんだなと改めて実感させられた。

新しい領域こそ、本質を捉えたアプローチで一歩ずつ進んでいくこと。
そういうスタンスの大事さを教えられた本だった。

ビジネスマン / 選手 / オーディエンス問わずe-Sports市場に何か関わっていきたい!と思っている人は是非一度手にとって欲しい本だ。

DeToNatorファンには特におすすめ!

またDeToNatorファンが本書を読むとよりチームへの理解が深まり、観戦の楽しみが増えるはずだ。
僕自身、毎日のようにStylishNoobさん / YamatoNさん / SHAKAさん / SPYGEAさんたちの配信を見ている。
彼らが配信以外でどのような活動をしているのか知ることができてさらに興味が増したし、応援したい気持ちが一層強くなった。

選手たち個々人だけでなくDeToNatorというチームが目指していく理想に惹かれるものがあった。
今まではどちらかというと個別の配信者に対して興味があって配信を見ていたが、これからはDeToNatorというチーム全体に対しても注目していきたいと思える本であった。

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